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「大人のためのグリム童話―手をなくした少女」
寄稿文の概要
この映画はグリム童話31番「手なし娘」を映画化したものである。アニメーション映画であるが、絵ではなく線だけで描く「クリプトキノグラフィー」という手法によってストーリが展開する。哀愁を込めたメロディ―がスクリーン全体に広がり、いやがうえにも想像力が掻き立てられる。こんな斬新なアニメが存在するのだ、とまず驚いた。
「手なし娘」は多くの類話では、父親が娘に求婚する「近親姦」の話である。金と引き換えに娘を悪魔に渡すと約束した父親に、娘は手を切られてしまう。引き留める父親を振り切って、娘は勇敢にも家を出て、自活の道を選択する。口で梨(初版では林檎)にかぶりついているところを庭番に見つかり、王子のところに連行される。王子に見初められ、彼女は后になる。王子が戦争に行っている間に后は子どもを産み、姑がそのことを手紙で王子に伝える。手紙が途中で悪魔にすり替えられ、后と赤子を殺せという返事が城に届く。追放された后は赤子を背負ってひとりで森の中で自活する。手のない腕で血を出しながら穴を掘り、口で種を撒く姿が、勢いのあるタッチで描がれている。グリム童話では自活のこの場面は存在しない。映画独自の挿入である。娘の自立した姿が実に生き生きと描き出されている。夫である王子は帰国して事情を知り、妻子を探す旅に出る。夫はついに2人を見つけ出す。しかし夫は自分を殺すために来たと思いこんでいる彼女は、夫を殺そうとする。そのとき、奇跡がおこる。
グリム童話にはないエピソードが続出するが、ジェンダー学的視点ら見ると、女性の自立が見事に描き出されていて、ポスト近代のジェンダー観が提示された卓越した改変といえよう。グリム童話とジェンダーに関心のある人には見逃せない作品である。
8月26日から1週間、シネリーブル梅田で上映予定。